まずは口論と間違いの訂正。
口論と間違いの訂正は、ふたつの状況の観点の比較に付随して見られる ── 存在する状態と存在しない状態 ── それゆえ、知的な説明が要求される。したがって、それらは段階6の行動に分類される。明らかに、これらの合図は出せない。
またよく分かんないこと言ってますが、口論と間違いの訂正は、今ある間違ってる状況と、あるべき正しい状況のふたつを比較して考えられないとできなくて、人間の子供で言えば2歳くらいの頭のよさで、だから人が合図を出してさせられることじゃないよ、ということです。
たとえば、多分ココが檻の中にいたときの口論です。
ココ: 鍵 鍵の時間 (Key key time.)
先生: だめ、まだ時間じゃない (No, not yet time.)
ココ: 時間だ (Yes time.)
先生: 時間じゃない (No time.)
以前の記事で、わざとゴリラに誤解をさせようとするテストを批判しましたが、これは本当に人が意図していないので、合図は出せないですよね。そして、間違いの訂正。
先生: (来客に口頭で) いいえ、彼女はまだ青年じゃないわ。まだ子供よ。
ココ: 違う、ゴリラだ (No, gorilla.)
これも前回の「よく眠れた?」と同じく、先生は人間の子供に当たる歳という意味で「子供 (Juvenile) よ」と言ったのですが、ココはその単語が分からなかったのか、ゴリラだと訂正しています。他人の会話を横で聞いて、勘違いではありますが訂正をする…これはたしかに合図ではできません。クレバー・ハンス現象でもありません。
ちなみに、ココは人間同士の会話に参加することはままあったようです。「良い (Good)」の手話のやり方を話している人たちに向かって、その手話をやって見せたこともあります。
他にも、以前ご紹介したココに「猿人間 (Apeman)」という曲を聞かせたときの話。あれも勘違いではありますが、直訳すると「猿男」なのでココは訂正していました。
加えて、ワショーとココは両者ともそれぞれひとりのときに手話をしているのが観察されている。彼らが、真似をしたり合図を出されたりはできないときにだ。
そう、彼らはひとりごとも言うのです (どんなひとりごとかは、過去の記事をどうぞ!)。誰の真似もできないし、誰の合図も受け取ることはできません。クレバー・ハンス現象では説明のできないことです。
まだまだいろいろな証拠を挙げていたのですが、論文の「チンパンジーからチンパンジーへの手話学習: クレバー・ハンスに対抗する究極の証拠」というタイトルの…ってタイトルですでにネタばれですよ、チェバリエル=スコルニコフさん!
タイトルのとおりなんで、とくに言うことないんですが、チンパンジーのワショーは養子のルーリスに手話を教えていたんです。これは計画的な実験で、かかわりのある研究員たちは、ルーリスの前ではごく一部の手話しかしないよう制限されていました。が、それ以上の手話をワショーから学んで、チンパンジー同士で会話していたのです。
…って、究極の証拠かもしれないけど、ゴリラのココじゃないじゃん…と言われたらそれまでなんですが!ココの究極の証拠も書いておいてくれたらよかったのに…。
あれですよ、ココには子供はいないから仕方なかったのかもですけど、マイケルと会話はしているのですよ!たとえば、ナショナルジオグラフィック誌にも掲載された有名な写真です! (下の写真はナショナルジオグラフィック誌のとは若干構図が違いますが、ほぼ同じです)
「笑って!」無駄に終わったが、ココはマイケルの写真の中で笑いなさいと手話をした。このゴリラたちは、定期的に手話で談話をかわす。そして、マイケルはボランティアのベビーシッターに手話を教え始めた──好きな遊び「追いかけっこ」の手話などを。
無駄に終わったというのは、結局マイケルは写真で笑っていなかったということでしょう。マイケルが5歳の頃だと思いますが、ナショナルジオグラフィック誌には他に、ココが「くすぐって」とマイケルに手話する写真が掲載されていました。くすぐりっこは類人猿たちの好きな遊びです。
というわけで、カメラを向けられたら笑うくらいはクレバー・ハンス現象で説明できるかもしれません。しかし、写真を撮られているのに笑っていないマイケルに対し、カメラを向けられたら笑わなきゃだめだよと伝えるのは、クレバー・ハンス現象では説明できないことじゃないでしょうか!
長くなって申し訳ないのですが、最後に論文の結論から!
クレバー・ハンス現象、合図、そして類人猿の手話行動の認知的分析は、類人猿の手話行動が、他のふたつの現象より高度な認知的過程をともなっていることを明らかにする。
パターソンもこの結論に大喜びですよ!自著で、論文からの引用をしています (引用文のサイン行動とサイン語は、手話行動と手話のことです)。
人類学者であるスーザン・チェバリエル=スコルニコフは、クレバー・ハンス効果だけが、類人猿のことばの使用を、もっとも慎重にむだなく説明できるものではない、という私たちの結論を支持している。
“類人猿は、高度な認知過程を非言語的な面にもあらわす。彼らのサイン行動の中に、そうした高度な過程をみることができる以上、類人猿が身につけたサイン語を、たんなる手がかりやクレバー・ハンス効果だけに帰するのは論理にかなっていない”
と、スーザンは述べている。
参照:
The Clever Hans Phenomenon, Cuing, and Ape Signing - The Sciences, June 1981, Vol.364
National Geographic, Oct. 1978, Vol.154, No.4
F・パターソン E・リンデン著 都守淳夫訳「ココ、お話しよう」
The Clever Hans Phenomenon, Cuing, and Ape Signing - The Sciences, June 1981, Vol.364
National Geographic, Oct. 1978, Vol.154, No.4
F・パターソン E・リンデン著 都守淳夫訳「ココ、お話しよう」
カテゴリ: ココは本当に話せるのか