手話で会話するオランウータン・チャンテック (3/3)

ゴリラのココちゃんについてのブログなので、どうしてもココちゃんと比べてしまうのですが、チャンテックとは共通点も多いので興味深いです。

生後10ヶ月の頃に最初に覚えた手話も、ココちゃんのように「食べる (food-eat)」「飲む (drink)」だったそうです。そして成長するにつれ、やはり人形遊びやごっこ遊びもするようになっていったそうです。

たとえば、お人形に向かって手話をしてご飯や飲み物を与えたりして遊んでいたそうです。また、見えない誰かに追いかけられているように、後ろを振り向きながら逃げ回る遊びもしていたそうです。おもちゃの動物に襲われる遊びでは、襲われた研究員たちを守ろうと立ち向かうやさしい心の持ち主でもありました。

また、他の話す類人猿たちと同様、ひとりごとも言っていたそうです。詳しい内容は残念ながら分からなかったのですが…たとえば何かいけないことをやってしまうと自分に向かって「悪い (bad)」と手話をしていました。

他の話す類人猿たちでは見ないエピソードと言えば、彼はワッシャーをお金として与えられていて、それを使ってお買い物をするのが好きだったそうです。マイルズ博士と一緒にファーストフード店でチーズバーガーやアイスクリリーム屋で買い食いをしていたのだとか。

また、非常に好奇心が強かったそうで、何か知らないものを見せられると手を差し出し、名前を聞いていたそうです。手話でどのような形なのか聞いていたのですね!好奇心が悪い方向に向かうと、人が入っているトイレのドアの下から中をのぞくなんていうことをして怒られていたりもしたそうです。

彼の賢さも悪い方向に向かったりしていたようで、電気掃除機で自分の体を吸わせて掃除したり、電気柵に囲まれた住処を脱走する方法をいくつもあみだしていたのだとか。

『これらの他の種族とのすてきな出来事を通じて、私はチャンテックをひとりの人として経験していたのだということに疑いはない』

マイルズ博士がチャンテックとの体験を語っての言葉です。そして、前々回の冒頭の哲学者ラ・メトリーのように問いかけています。

『われわれの人間性の土台が言語的な、そして精神的な能力にあるのだとすれば、今やわれわれは問うべきであろう。「オランウータン、または他の動物は人であるのか?」と。』

たしかに人間の子供のようにふるまうチャンテックや他の話す類人猿を見ていると、人と動物の境目はどこなのかという気はしてきます。彼らも遺伝子による分類では人間と同じヒト科ですし!今のところは話しているように見えても本当は言葉は話せないとされていますが…これも考えようですよ。

17世紀の哲学者デカルトは動物は話せないし心もないと考えていましたが、18世紀の哲学者ラ・メトリーは教育すれば人と変わらないと考えました。20世紀に入って心理学者たちが話せたと主張したと思ったら、数年で否定されてしまい、とは言うものの動物たちにも心はあると考えられるようになりました。なんと今では虫のミツバチにすら、過去の経験から未来の行動を決める心の働きがあるのではないかと考える人までいます。

…これはあれですね、ワンチャンありますよ。科学の歴史なんて新しい発見による書きかえの歴史でもあるということですよ!話す類人猿ファンのわれわれとしては、いつかまた「類人猿も言葉を話せる」と書きかえられるのを信じて待ちましょう!


手話で会話するオランウータン・チャンテック (2/3)

『チンパンジーはしばしば類人猿たちの中で「最も賢い」との世評を持ち、オランウータンは愚鈍で怠惰だという世評を持つ。そのようなレッテルは不適切で、研究の結果に反している。』

話すチンパンジーのラナ (Lana) の育ての親、デュエイン・ランボー (Duane Rumbaugh) 博士がこうコメントするように、オランウータンのチャンテックもなかなか賢い…というか、こと言語能力については他のチンパンジーたちにひけをとりません。

リン・マイルズ博士が教えて始めて1ヶ月で最初の手話を覚え、最終的に150語になったボキャブラリーには、こんなものが含まれるそうです。
  • 人の名前 … リン、ジョンなど (Lyn, John)
  • 場所や地名 … 庭、ブロックホールなど (yard, brock-hall)
  • 食べ物 … ヨーグルト、チョコレートなど (yogurt, chocolate)
  • 行動 … 働く、だっこなど (work, hug)
  • 物 … ドライバー、お金など (screwdriver, money)
  • 動物 … 犬、類人猿など (dog, ape)
  • 色 … 赤、黒など (red, black)
  • 代名詞 … あなた、私など (you, me)
  • 位置 … 上、地点 (※2) など (up, point)
  • 形容詞 … 良い、怪我をしたなど (good, hurt)
  • 語勢 … もっと、する時間など (more, time-to-do)

手話を学ぶにしたがって教えたことのない手話の組み合わせや使い方をするようになり、彼の心の中で世界をどのように分類しているか理解することができるようになりました。たとえば、
  • 悪い 鳥 (bad bird) … 警戒の鳴き声を出すうるさい鳥
  • 白い チーズ 食べ物 (white cheese food-eat) … カッテージチーズ
  • 犬 (dog) … 犬、犬の絵、テレビのオランウータン、ラジオの犬の鳴き声、鳥、馬、サーカスのトラ、牛の群れ、チーターの絵、犬の鳴き声のようにうるさいヘリコプター
  • 虫 (bug) … コオロギ、ゴキブリ、ゴキブリの絵、カナブン、ナメクジ、小さな蛾、クモ、ミミズ、ハエ、蝶の形をしたグラフ、キャットフードのかけら、うんこのかけら

動物をまとめて犬と、小さな生き物をまとめて虫と呼んでいるような感じもしますが、漢字の成り立ちと比べてみると興味深いですね。「犭 (けものへん)」は犬と同じ字源で、猩々 (オランウータン)、豹 (チーターの仲間) にも使われています。虫はもともとマムシの象形で、ナメクジ (蛞蝓) やミミズ (蚯蚓) にも使われています。甲骨文字を生み出した太古の人たちにも近い感受性なのじゃないかという気がしてきます。

また、新しい手話を作り出すこともあったようで、たとえば:
  • 歯なし (no-teeth) … 遊ぶときに噛みつかないよという意味で
  • 目の飲み物 (eye drink) … 研究員の使うコンタクトレンズの溶液を見て
  • 指なしデイブ (dave-missing-finger) … チャンテックの好きな大学職員で手を負傷していた

最後はあだ名のような気もしますが、チャンテックは同じ檻で暮らすあまり好きではないオランウータンのシブ (Sibu) に対して、「オレンジの犬 (Orange dog)」などとあだ名をつけたりもしていたそうです。

ココちゃんのように死生観について語っていたかは分かりませんが、死んだ鳥を見て「悪い (bad)」と手話をしたそうです。他に猫を捕まえる前や、ダイコンをかじる前にも「悪い」と手話していたようで、心やさしいところはココちゃんと変わりません!

また、ココちゃんのように嘘もついていたようで、比較的幼い頃から週3回くらいのペースで嘘をついていたそうです。たとえば「汚物 (dirty)」という口実でトイレにつれていってもらってドライヤーや石鹸で遊んだり、手をひっぱって気をそらしたすきにポケットの食べ物を盗んだりしたそうです。…まさに嘘つきは泥棒の始まり…!

ユーモアのセンスもあったようで、たとえば消しゴムを盗んで飲み込むふりをして口をあけて見せ、「食べ物 食べた (food eat)」と周囲の人を驚かせたりしていました。実際は消しゴムは口の頬の隠されていて、後でチャンテックの寝床の隠し場所から見つかったりしていたそうです。

しかし、嘘やジョークというと例の批判が気になってくるわけですが…それについてのマイルズ博士の言葉です。

『われわれは、チャンテックの手話は自発的で、反復的ではないということを調べた。手話の訓練をされたチンパンジーのニムと違い、彼は話し相手を真似ることはほとんどなかった。むしろ、チャンテックはコミュニケーションを始めるため、そして彼の必要を満たすために、活発に手話を使った。』

かなり意識はしているようですね…!

次は言葉以外のチャンテックの人となりについてです!

手話で会話するオランウータン・チャンテック (1/3)

『この動物は、われわれと強い類似を持つので、博物学者たちが「野生の人」「森の人」と呼んだほどだ。……… もしこの動物が完璧に訓練を受けたなら、われわれは彼に発声を教え、その結果言葉を学ばせることに成功するであろう。……… 真の哲学者たちが同意するであろうごとく、動物から人間への突然の境目はない。』

以前もちょっとお話した、18世紀フランスの哲学者ジュリアン・オフレ・ド・ラ・メトリーの言葉です。それから200年、彼の言うとおり発声はできなかったものの言葉を学ぶことに成功した「森の人」、つまりオランウータンが現れました。手話で話をするチャンテック (Chantek) です!


1977年12月17日、ヤーキーズ霊長類研究所で生まれたオスのオランウータンで、チャンテックはマレー語とインドネシア語で「愛らしい」「美しい」を意味するそうです。

ゴリラのココやチンパンジーのワショーの成功を受け、テネシー大学チャタヌーガ校の人類学者リン・マイルズ (H. Lyn White Miles) は、9ヶ月のチャンテックをもらいうけ手話を教え始めました。ココちゃんの影響はこんなところにもあるんですね!

このプロジェクト・チャンテックのゴールはオランウータンの心の発達と認知の研究で、言語教育はその一環だったのだそうです。チャンテックも、最終的に150の単語を覚え、ココちゃんのように多少の英会話も分かるようになりました。

そしてなんと、ココちゃんのように猫をペットにしていたそうです!チンパンジーのニムも猫が好きでしたし、こうなってくるとあれですね。ヒト科の動物の特徴として「賢い」「道具を使う」に加えて、「猫が好き」というのを加えてもいいんじゃないでしょうか!

また、好きな色の赤と黒を使って、ココちゃんのように絵も描くそうです。「忘れがたい美しさ」の「日本の書道を思わせるような」、チャンテックの絵です。


…あれですね、外国の方には同じように見えるんでしょうね!他にも上手にネックレスを作ってマイルズ博士にプレゼントするなど、なかなかの芸術家だったようです。著作権的によく分からないので写真は貼れないのですが、こちらでネックレスの写真が見られます。

残念ながら、8歳になると大きくなりすぎたという理由で、霊長類研究所に送り返されてしまいました。そこで運動不足や抑うつ、実験のご褒美のお菓子の食べすぎで46kgから230kgまで太ってしまいました。

その後、27歳になるとアトランタ動物園で暮らすようになり、現在は110kgまでダイエットに成功したそうで、大好きなハンモックで寝られるようにもなりました。


また、軽々と高いところに登れるようにはなったものの、オランウータンの子供たちに意地悪する様子が観客に撮影されて公開されてしまうなど恥ずかしいことにもなっています。


次は、そんなチャンテックがどんな話をしたのか見ていきましょう!
ご案内
最近の記事
最近のコメント
カテゴリ
タグクラウド
過去ログ

ブログランキング・にほんブログ村へ
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。